ダンスを動画撮影するときには、ひとつ大きな問題があります。ダンスを撮るのか、踊っている人を撮るのかという問題です。この2つは同じことではありません。
ダンスを撮るのか人を撮るのか
ダンス動画の撮影方法は、撮影の目的によって大きく変わります。ダンス自体を見せるのが目的か、踊っている人を見せるのが目的かの違いです。
「どちらも目的だ」とおっしゃるかもしれませんが、この2つの目的はトレード・オフの関係で、1台のビデオカメラでは両立するのが困難です。なぜなら、ダンスを見せるには全身を撮らねばなりませんが、踊っている人に主な関心がある視聴者は、顔のアップがないと不満に思うからです。
これはたとえば、ダンスを売りにしているアーチストのライブ映像と、ダンスが売りというわけではないアイドルのそれを見比べていただければ、よく分かっていただけると思います。
もちろんどちらもマルチカメラで撮影されていますが、アーチストの場合、身体の動きがわからなくなるような画や編集はまずないはずです。一方アイドルの場合は、身体の動きより表情のアップを優先しているはずです。
自分の子供のダンスを撮影する場合で考えます。
ダンス上達のためのフィードバックが目的なら、ダンスの途中で顔のアップを撮るべきではありません。グループでのダンスなら、自分の子供だけを撮影するのもNGです。ダンスとは身体全体、グループ全体の動きであり、ふつうは始まってから終わるまで切れ目はありません。
一方で、わが子の思い出を残すのが目的なら、寄りのない画面は味気なく感じるでしょう。そういう撮影では、ダンスはある程度犠牲にして、表情を撮っておく必要があります。
まとめると、1台のビデオカメラでダンスを撮影するときは、ダンスを撮るのか人を撮るのかという撮影の目的を事前にしっかり決め、その上で撮影に臨む必要があるということになります。
ダンスビデオの基本的な撮り方
三脚を使い、正面センターから撮影します。
重要なのは、腕や脚を伸ばしても身体がすべて画面に収まるよう、余裕のある画角にしておくことです。
立ち位置が移動する場合は、それに合わせてカメラを振るのが理想ですが、難しい場合は、動く範囲をすべてカバーできるルーズな画角にしておきます。
アップを撮るタイミング
ダンスの動きをよく見て、いいタイミングでズームします。
たとえば繰り返しの動きがあるダンスなら、2度目以降の繰り返しはアップを撮影するチャンスです。視聴者の頭の中には、1回目で動きのイメージができています。ですから、繰り返しのダンス中に画面が顔のアップになっても、視聴者は見えない動きをイメージで補うことができます。つまり「ダンスが写っていない!」という不満を抱きにくいタイミングだというわけです。
ちなみにこれは、マルチカメラで撮影した映像を編集する場合も同じです。動きが繰り返されるタイミングがアップをインサートする絶好のポイントになります。
また、フォーメーションが変化するグループでのダンスなら、お互いの間隔を開けて広がったり、逆に間隔を詰めて集まったりするはずです。その変化に合わせてズームを操作すれば、最も違和感のない形でアップを撮ることができます。
いずれにしても、カメラマンの頭にあらかじめダンスの動きが入っているかどうかで、撮影の出来は大きく違ってきます。いい撮影をするには、練習やリハーサルに極力参加することが大事だと思います。
オススメの裏ワザ:ゲネプロを撮影する
裏ワザというほどでもないのですが、ダンスに限らずステージ物のビデオ撮影でオススメしたいのがゲネプロでの撮影です。
ゲネプロとは、観客を入れずに本番と同じ条件で行う最終リハーサルのことです。ですから撮影する画も音も、本番とまったく同じものになります。
本番ではなくゲネプロをビデオ撮影するいちばんのメリットは、カメラ位置を自由に選べることです。
前述しましたが、1カメでダンス等のステージをビデオ撮影する場合、カメラはセンターに据えるのが基本です。
観客が入る本番撮影だと、ほとんどの会場では最後列の座席以外に選択肢はありません。それより前だと、後ろに座る観客のジャマになってしまうからです。
しかし、ズーム倍率やカメラ操作など撮影クオリティのことを考えると、最後列よりも前方に据えたほうがいい場合が結構あります。
また、客席の構造的に、どこにカメラを置いても観客の頭が舞台に被ってしまう場合もあります。
そのようなとき、観客がいない状態でカメラ位置を自由に選べるゲネプロ撮影は、ビデオのクオリティを上げるのにとても適しています。
もうひとつ、ゲネプロ撮影の大きなメリットは、やり直しがきくということです。
ゲネプロは通し稽古ともいって、本番同様ノンストップでおこないます。しかし、途中でミスが起きたときは、終了後すぐにその場面だけピックアップしてやり直します。そうしないと、本番でもミスする可能性が高いままですから当然ですね。
ビデオは編集ができますから、ミスした場面をやり直しに差し替えればいいわけです。
編集を前提に撮影するのなら、ローコストで動画のクオリティを上げる方法はさらに広がります。
例えばゲネプロを主に引きで、本番を主に寄りで撮影しておいて上手く編集すれば、1カメ撮影で2カメ撮影の効果を出すことも可能です。
総じていえることは、映像の最終的な出来上がりを具体的に想定して、そこから逆算して撮影方法を考えれば、コストをかけずにクオリティを上げる事が可能だということです。
最後までお読みいただき、誠にありがとうございます。オンラインでワークショップやコーチングもやっています。お気軽にお問い合わせください。
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